6.指定席
「 向 か い の 椅 子 」
はめっぱなしの指輪が 右手薬指に移動した
綺麗な銀色も燻って 重たそうに光っている
君が置いていったダージリンティーも
寂しげにポットの中 舞う
甘いケーキも欲しいんだって
不意に空耳が聞こえた気がした
はしゃぐ程に近付くなんて 嘘っぱち書いたエセの教本
こんなの読んでたんだ君は そういえばこんな事言ってたな
「宇宙の何万分の確率 君と私が出会えた奇跡」
どっかのこてこて映画みたい 僕は少し笑ったけれど
「大事にしなきゃいけない出会い 君と私が出会えた運命」
どっかのこてこて映画より ずっとずっと甘く聞こえたけれど
丸くなる猫が乗ってる椅子 君の指定席
付けっぱなしだった電気ライト 一体いつから覚えてないや
スイッチ押して消えてしまったら やっぱり何も残ってない
コップに刺さったままの歯ブラシは もうそろそろ替え時で
それなのに棄てられずにいるのは それが最後だったから
君の指定席 きっと誰も座らせはしないだろう
君は笑って そんなこと言うなって言うだろう
こんな僕を煩わしいってさ 思うかい?
こんな僕を大嫌いだって 罵るのかい?
萎れて見える 君の指定席